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日本大学藝術学部 Q&Aイベントレポート。

2024/07/26(金)

7月25日(木)、日本大学藝術学部の江古田キャンパス内にて学生向け試写会を実施。大学在学中に制作した長編初監督作『僕はイエス様が嫌い』が、第66回サンセバスチャン国際映画祭の最優秀新人監督賞を受賞、長編2作目となる商業映画デビュー作の『ぼくのお日さま』でカンヌデビュー、第 26 回台北映画祭では「審査員特別賞」「観客賞」「台湾監督協会賞」をトリプル受賞した奥山大史監督、そして、日藝の卒業生でもあり、本作で夢に敗れた元フィギュアスケート選手のコーチ・荒川を演じた池松壮亮さんが登壇し、いままさに映画について学んでいる学生の皆さんと白熱のQ&Aを繰り広げました。

満席となった教室で、温かい拍手で迎えられた奥山監督と池松さん。

監督は「初めてこの大学に来ましたが、感激しています。こんな充実した設備があるんですね」と笑顔を見せ、久しぶりに母校におとずれた池松さんは「実は、今日の試写は、一般の方に初めてのお披露目なんです。自分の母校ということもありますが、これから未来に羽ばたいていく皆さんにお届けできるということは本当に光栄だなと思っています」と感慨深げな様子でした。

まず、司会をつとめた映画学科の志村三代子教授から、3人のスケートシーンについて「どのように撮ったのか?」と問われた監督は「自分もスケートの経験があったので、スケート靴を履きながら撮りました」と説明。
さらに、「スケートリンクではけっこう照明にもこだわって、窓の数だけ大きい照明器具を用意してもらいました。基本的にスケートのシーンはドキュメンタリーで、台本には“だんだん上手くなっていく3人”としか書いてなく、池松さんに子どもたちを演出していただきながら演技をしてもらいました。ほとんどアドリブでしたね」と振り返りました。

「スケートがお上手でしたね」と言われた池松さんは「上手じゃないですよ。ごまかし、ごまかしね・・・(笑)」と照れながら、「これまでも色々なことに取り組ませていただきましたが、今までで一番難しかったです」と本音も。
「奥山さんも監督をしながらカメラを回して、実際に滑りながら撮影していますから。湖のシーンは4人で2日間カメラを回しっぱなしでした」と苦労を語りました。

また、自身のクランクインが越山敬達さん演じるタクヤと、中西希亜良さん演じるサクラとの3人のシーンだったこともあり、「子供たち2人には脚本を渡していないので、カメラの前であらかじめ決められたことをやるというよりも、新鮮に物語と出会っていくというスタイルだったんです。なので、どうしても自分がコーチ役として2人を導いていかなければいけなかったですし、とにかく2人のキラキラした輝きをどれくらい映画に残していけるかが重要でした。俳優は皆そうですが“人は反射するもの”なので、構えることなく本当に心を通わせるということの一点勝負だったと思います」と語りました。

この日は学生のみなさんからも多くの質問が飛び交い、1つ1つ丁寧に答えた奥山監督と池松さん。

「タクヤの学校が円形校舎でしたが、それを選んだ理由は?」という質問に、監督は「石狩にある校舎だったんですが、物語を2000年くらいの時代に設定したかったんです。限定した時代ではなく余白を作りたかった。今はあまり見なくなった校舎で2000年代をピークに建設されたらしいんです。独特な画も作れて、屋上の景色がとにかく素晴らしくて」と回答。

フィギュアスケート経験者だという学生さんからは「フィギュアスケート指導の表現が凄く良かったです。忘れていた記憶が呼び起されました。どのようにその場面を作っていったんですか?」という質問も。監督は「元フィギュアスケーターの方に監修に入ってもらい、その方と池松さんとでリアリティーあるシーンを作ってもらいました」と明かしました。

また、奥山監督の代表作でもある『僕はイエス様が嫌い』も本作も監督の子供のころの経験をヒントに制作されているが、「子供のころの経験を作品にするうえで大切にしていることは?」という問いに対しては、監督は「やっぱり子供のころって、今よりももっともっと感情起伏があったというか、本当に些細な事で凄く落ち込んだり、舞い上がったりとして、あのときの時間がとても長く感じたし、キラキラして見えるし、そういったものがカメラのレンズを通せば、もう1回呼び起こされるんじゃないかと思うし、そういう映画を作りたいと思っています」と話し、「実体験ではないところの感情をどう取り入れいくか、考えながら撮影していきました」と、自身の映画作りの根底となる感情を伝えました。

一方で、池松さんは「学生の頃の経験は全部活きていると思います。いい学校ですもんね(笑)。社会に出る前の4年間は、本当にギリギリに残された猶予として、自分はあまり褒められた学生ではなかったんですが、映画を観たり、ひたすら考えたり・・・そういう時間を過ごしたことが、その後の自分の俳優活動にもの凄く活きてきたと思っています。
幼少時代では、今回の子役の子たちと同じくらいの11~12歳がデビューだったので、初めて俳優に触れたくらいの歳。何もわからない状態でしたが、そんな中で映画を体験するってどういうことなのか、自分は初めて映画に参加した時に何を思っていたか、どういうふうに世界を見ていたのかを、今回たくさん振り返る時間になりました」と、自身の経験を振り返っていました。

さらに、「自分の表現を磨いていく方法があったら教えてもらいたい」という言葉に、監督は「それは僕も探し中ですが、結局は何か好きな作品を見つけたら、その作品に関してなぜ自分が好きだと思ったかを言葉にしていく。それを繰り返していくしかないと思います」と持論を展開。
池松さんは「僕は常に流動的でありたいと思っていますし、様々なスタイルを獲得していきたいと思っています。昔は自分のスタイルって何なのかなと考えましたけど、今はいろんなものをマネしていいし、そして自分の表現に対して素直になることだと思っています。そうしたら必ず自分のスタイルというのは結果として出てきますから。どんどん取り込んで、どんどん素直に表現していけばいいんじゃないかな」と、答えました。

最後に監督は「これだけ素晴らしい設備と素晴らしい先輩がいるなかで、その背中を追いかけながら学べるのは最高に羨ましいです。そう思われる場所にいることに誇りを持って、映画作りを目指していってほしいなと思います。皆さんとは年齢も近いですし、いつかお仕事でご一緒できたら嬉しいです」と呼びかけます。

池松さんからは「監督はこれまでのルールに縛られず、脚本もカメラも自分でやっていて。良い映画をつくるのにルールって必要ないんですよね。既存のルールをぶち壊して新しい世界を作って行きたいと思いますし、ぜひ僕も皆さんとお仕事できる日を楽しみにしています」とエールを送りました。